腹膜心膜横隔膜ヘルニア
種 類 | 雑種猫 |
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年 齢 | 10歳 |
診療科目 | 外科 |
症 状 | たまに発咳が認められる程度で、その他特異症状なし。 |
- 症例の概要
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猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニアに遭遇したので報告する。
検査結果
健康診断で来院。
胸部レントゲン検査にて、心陰影の拡大、心陰影と横隔膜ラインの重複、横隔膜の不連続性を認めた。
CT造影検査にてヘルニア嚢内への肝臓と大網の一部嵌入を認めた。
治療方法
腹部正中切開し、腹腔内臓器(当症例では肝臓、大網)と横隔膜の欠損孔との癒着を剥離し、腹腔内へ還納した。
横隔膜の欠損孔縁をデブリードし、単純連続縫合法により閉鎖した。
欠損孔閉鎖後、心嚢内および胸腔内より空気を吸引除去した。
最後に腹部の正中切開部位を閉鎖した。
術後の経過
経過良好、観察中。
症例について
小動物臨床において腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)に遭遇する機会は外傷性横隔膜ヘルニアと比較し少ない。
PPDHでは呼吸困難を伴う例もみられるが通常は無症状である。
ヒトでは心膜腔壁の一部を横隔膜が形成しているため、PPDHが外傷性に発生する場合もあるが、犬および猫では出生後は心膜腔と腹膜腔との間に直接連絡がない事から、先天性にのみ発生する。
一般的に本疾患は胚形成の段階における横中隔の発生不全、あるいは出生前損傷に起因すると考えられている。
すなわちPPDHの原因としては催奇形性物質、あるいは遺伝的障害による横中隔の発生不全、および出生前損傷が考慮される。
PPDHに付随し、心の異常および胸骨の奇形がしばしば発現する。
頭側腹壁、尾側胸骨、横隔膜、および心膜の先天的欠損が犬で報告されているが、心室中隔欠損、あるいは他の心疾患を伴う例も比較的多い。
PPDHが遺伝性であるかは確認されていないが品種特異性は認められており、ワイマラナーおよびコッカ―・スパニエルに発生が多いとされている。
獣医師 高野儀之